Войти「はぁっ~!? ユウヤ……が苦戦って……? 何と戦ってるの? ドラゴンの群れとか?」
さらりと言ってのけたサーシャのその言葉に、俺は思わず戦慄した。
ドラゴンの群れだと? 一体倒しただけで世界の魔力バランスが狂い、これほどの化け物が湧いて出てきたんだぞ。そんなものが群れで現れて、それをもし俺が全部倒してしまったら――。
溢れ出す魔力がさらなる怪物を生み、この世界がどんな地獄絵図に変わるか。想像するだけで背筋に冷たいものが走る。今の俺にとっては、目の前の十九体以上に、サーシャの口にする「最悪の可能性」の方がよっぽど恐ろしかった。
「違うしっ!」
俺は思考を遮断するように叫び、迫りくる鋼の嵐をバリアで強引に弾き飛ばした。火花が散り、金属が擦れる嫌な音が夜の山道に響く。
原因を作った張本人の無自覚な言葉に、怒りはついに頂点に達しようとしていた。この女神様、早く帰ってきて一緒に寝たいなどと甘い言葉を吐いておきながら、俺をこの窮地に追い込んだ
あまりの圧力に、愛用していた剣の柄に嵌め込まれていた魔石が、その奔流に耐えきれずパキィィィンッ!と甲高い音を立てて弾け飛んだ。 それだけではない。俺の全身からは、ゆらゆらと陽炎のような金色のオーラが立ち上り、深い夜闇の中で眩いばかりに可視化されている。これほどまでの密度で魔力を放出するなど、魔術師が見れば卒倒しかねないほどの贅沢な無駄遣いではないのか。「出来たんだけどさ……これって体の周りにオーラみたいなのが出てるんだけど……勿体ないんじゃない?」「あぁ……気にしなくても大丈夫だよ……息をして吐いた息が勿体ないって言ってる様なものだし……って、うわぁ~一回の制限解除で、そんな状態になっちゃってるの?」 脳内の彼女の声が、明らかな驚愕に震えている。どうやらこの黄金の輝きは、創造主である彼女の予想すらも遥かに上回る、異常なまでの高出力の証だったらしい。 ん? なんだその反応は。 一回の解除。ということは、この尋常ではない状態ですら、まだ一段階目に過ぎないということか。吐く息と同じ感覚で垂れ流しているこの魔力量ですら、俺にとっては微々たるものだというのか。 どんだけ力を抑えて生活していたんだ、俺は……。 戸惑いながらも視線を巡らせれば、視界の端に映るモンスターたちの動きが、先ほどまでの神速が嘘のように、まるでスローモーションの映像を見ているかのように感じられる。周囲の人々がどうなのかは知らないが、少なくとも目の前で怯えたように足を止めた十九体のバケモノたちが、今はひどく矮小な存在に見えていた。「そっか……それよりさ……制限時間とか、解除した時の代償とか副作用ってあるの? あるなら、初めに教えておいてほしいんだけど」 溢れ出す魔力に全身が支配される感覚は心地よいが、その反面、恐ろしいほどの万能感には不安もつきまとう。戦いが終わった瞬間に激痛に襲われたり、あるいは数日間動けなくなるような反動
「はぁっ~!? ユウヤ……が苦戦って……? 何と戦ってるの? ドラゴンの群れとか?」 さらりと言ってのけたサーシャのその言葉に、俺は思わず戦慄した。 ドラゴンの群れだと? 一体倒しただけで世界の魔力バランスが狂い、これほどの化け物が湧いて出てきたんだぞ。そんなものが群れで現れて、それをもし俺が全部倒してしまったら――。 溢れ出す魔力がさらなる怪物を生み、この世界がどんな地獄絵図に変わるか。想像するだけで背筋に冷たいものが走る。今の俺にとっては、目の前の十九体以上に、サーシャの口にする「最悪の可能性」の方がよっぽど恐ろしかった。「違うしっ!」 俺は思考を遮断するように叫び、迫りくる鋼の嵐をバリアで強引に弾き飛ばした。火花が散り、金属が擦れる嫌な音が夜の山道に響く。 原因を作った張本人の無自覚な言葉に、怒りはついに頂点に達しようとしていた。この女神様、早く帰ってきて一緒に寝たいなどと甘い言葉を吐いておきながら、俺をこの窮地に追い込んだ元凶が自分だということを、一体どこまで理解しているのやら。「じゃあ……何と戦ってるのよ?」 脳内のサーシャは、未だに事態の深刻さが飲み込めていないようで、どこか疑わしげに問いかけてくる。俺は迫りくる三振りの大剣を、ミリ単位の精密な回避と最小限の魔力障壁で受け流しながら、現状を言葉にして叩きつけた。「ん~……人型で角が生えてて、人より大きくて武装をしてて……剣で攻撃されると俺のバリアが持たない感じのモンスター二十体と戦ってる」「はぁ?……そりゃ強いモンスターと……って二十体!? うわぁっ……まじで~!? でも……制限解除すればユウヤなら余裕じゃないの?」「はい? 制限解除ってなによ? 初めて聞くし、知らないんだけど……?」 耳慣れない不穏な単語に、思わず攻撃を捌く手が止まり
その時、静寂を切り裂いて二体の巨躯が爆発的な踏み込みを見せた。巨体に似合わぬ神速。大気を鋭く引き裂く音が遅れて届くほどの速度で、二振りの大剣が俺の急所を目掛けて同時に突き出される。「――っ!」 咄嗟に魔力を展開し、半透明の障壁を眼前へ多層に張り巡らせる。ガキンッ! という耳を劈く硬質な衝撃音とともに、バリアが激しく火花を散らした。 うわっ、早っ……! 今まで戦ってきたどんな魔物とも、攻撃の初速とキレが段違いだ。もし俺が剣一本だけで戦っていたとしたら、一体の突きを弾いた瞬間に生じる隙を突かれ、もう一体の刃に確実に貫かれていただろう。避けることすら困難な、精密で暴力的な同時攻撃。多重バリアという面の防御があって初めて防ぎきれる、死の連撃だった。 障壁越しにダイレクトに伝わる凄まじい振動に、腕の骨がミシリと嫌な音を立てて軋む。だが、その危機的状況とは裏腹に、俺の唇の端は自然と吊り上がっていた。 ……ヤバイな、これ。 背筋を伝う冷や汗が流れる一方で、心の奥底では熱く滾る何かが沸き上がるのを感じる。圧倒的な力を持つ創造主の気まぐれが生んだ、この絶望的なイレギュラー。本来なら恐怖に足がすくむはずの光景だ。だが、今の俺にはそれが、最高に刺激的で面白い遊びのように思えていた。 全身の血が騒ぎ、視界が異常なほどクリアに冴え渡っていく。多重バリアを叩く大剣の重みも、闇に蠢く残りの魔物たちの殺気も、すべてが俺をさらなる高みへと押し上げる糧に変わっていく。 攻勢に転じるべく、俺は魔力の障壁を鋭利な刃の形へと硬質化させ、眼前の個体へ向けて叩きつけた。重い衝撃音が夜の空気を震わせる。モンスターは咄嗟に強固な籠手でガードしたものの、その衝撃に耐えきれず後方へと派手に吹き飛んでいった。 だが、手応えは芳しくない。バリアの斬撃は厚い防具を捉えたに留まり、致命的な深傷を負わせるには至らなかった。 マジか……バリアの直接攻撃ですら、この程度しか効かないのか。 いざとなれば、対象の体内に直接バリアを発生させて内部から破裂させるなり、やりようは
「あるあるー……! 倒せばそのモンスターの魔力が開放されて辺りに放出されて、新たなるモンスターを創り上げる源になるからね~あの最古のドラゴンの魔力はハンパないからね~そりゃ強いモンスターやモンスターの群れが創られていても不思議じゃないよ」 女神様による、あまりにも衝撃的な世界のシステム解説。つまり、あの日俺が力任せにぶち抜いたあのドラゴンの膨大な魔力が、今のこの世界の歪な養分となってしまったというわけか。 あの巨躯に凝縮されていた神話級の魔力が一気に大気中へと霧散し、それを吸収した魔物たちが急激な変異や進化を遂げているのだとしたら、目の前で蠢くバケモノたちの異常な強さも説明がつく。俺が世界を守るために振るった力が、巡り巡って新たな驚異を育む土壌になっていたという事実に、俺は奥歯を噛み締めた。 けれど、そもそもあのドラゴンを目の前に引きずり出し、俺を戦いに巻き込んだのはどこの誰だと言いたい。不条理な思いが胸を掠める。「はぁ……言うの遅くない……か、それ。それで、サーシャが倒したって違いは?」「あ、えっと……だから~わたしは倒してないよ? わたしはドラゴンの存在を消したんだよ。もともといなかった事にしたの。だから魔力が放出されてないのよ。あ、でも……世界のバランスが崩れないように世界の何処かに同じドラゴンを移した様な感じにしたけどね~」「そうですか……」 さすがは創造主と言うべきか。物理的な破壊によって命を絶つのではなく、存在そのものを世界の理から抹消し、最初から「なかったこと」にするという、次元の違う処理を平然とこなしていたらしい。おまけに、世界の総魔力量が変わらぬよう、どこか別の場所へ放り投げてバランス調整まで済ませているという抜かりのなさだ。 つまり、この場に漂うSSS級のプレッシャーも、元を辿れば俺が「普通に倒してしまった」ことへのツケというわけか。俺は深く重いため息を飲み込み、手の中で魔力を鋭く練り上げた。原因が理解できたところで、目の前の二十体のバケモノたちが霧
初めて目にする魔物だが、そこから放たれるプレッシャーは、これまで相手にしてきた連中とは比較にならないほど強大だった。サーシャがこの世界へやって来てからというもの、世界の理そのものが狂い始めているのか、現れる敵の質が明らかに跳ね上がっている。「……ちっ、面倒なことになったな」 俺は一瞬の迷いもなく、咄嗟の判断を下した。道沿いにそびえ立つ切り立った岩壁へ、凝縮した魔力の障壁を叩きつけて強引に横穴を穿つ。崩れた岩の粉塵が舞う中、その急造のシェルターの奥へ、俺はユフィリスを静かに下ろした。「なんか手強そうなモンスターが現れちゃって、少し待っててくれる? ベッドも出しておくから寝てても良いよ」 彼女の抱く不安を和らげるよう、努めて穏やかな声で語りかけながら、アイテムボックスから使い慣れたベッドを取り出して岩穴の中へと設えた。ユフィリスは少し不安げにその大きな瞳を揺らしたが、俺の言葉を信じるように、すぐに小さく、けれど固い決意を込めて頷いた。「うん……気をつけてね……ちゅっ♡」 不意に背伸びをした彼女の唇が、俺の頬へと柔らかく触れた。温かな体温と共に伝わったその感触は、夜の冷気に晒された肌に熱を灯す。「あ、ありがと……」 予想だにしなかった不意打ちの贈り物に、俺は一瞬戸惑いながらも、愛おしさを込めて彼女の柔らかな頭をそっと撫でた。そのまま、すぐさま穴の入り口へ多重のバリアを展開して封鎖し、音も姿も外からは一切感知できないよう、遮音と不可視化の術式を幾重にも重ねていく。 完璧な守護を完成させた俺は、再び闇が支配する山道へと、静かに、けれど鋭い眼差しで向き直った。そこには、獲物の臭いを嗅ぎつけた異形の軍勢が、不気味に武具を鳴らしながら俺を待ち構えていた。 眼前に立ち塞がる巨躯の群れを鋭い眼光で睨み据えながら、俺は掌に滲んだ冷や汗を拭った。一体一体が放つ、大気を押し潰すような重苦しい威圧感。それは、かつて対峙した俊敏な犬型の魔物や、ただ図体がデカいだけの人形モンスターとは、根源的な次元から比較にならない。おそ
王女という至高の立場にある彼女なら、王宮の宝物庫に眠るような立派な宝石など、これまでに幾らでも目にしてきたはずだ。しかし、冷えた指先でお湯の底を探り、自らの力で見つけ出したこの小さな光の粒が、今の彼女にとっては世界のどんな至宝よりも価値のある、特別な宝物なのだろう。 小さな掌の中で大事そうに石を握りしめ、宝物を守るように胸元へ引き寄せるその無邪気な様子を眺めていると、ユウヤの口元も自然と緩んでしまった。お湯の熱さとはまた別の、穏やかで柔らかな熱が、じわりと胸の奥に広がっていくのを感じた。 「お兄ちゃん……浮いてるね~。すごーい……」 水面にぷかぷかと体を浮かべ、脱力しきっている俺の姿が、ユフィリスには不思議な魔法のように見えたらしい。 波紋を立てながら近づいてきた彼女は、水面から出ている俺の顔を覗き込み、興味津々といった様子で瞳を丸くした。 「わたしもやる~どうやるの?」 「あ、やめて……」 今にも俺の真似をして仰向けにひっくり返ろうとするユフィリスを、俺は慌てて手で制した。 いくら幼い子供とはいえ、彼女は一国の王女だ。 お湯の中で無防備に手足を伸ばせば、膨らみ始めたばかりの柔らかな胸元や、年頃の女の子として隠すべき場所が、容赦なく水面から露出してしまうことになる。 そんな光景を目の当たりにするのは、教育上も、そして俺の精神衛生上も極めてよろしくない。「えぇ~お兄ちゃんだけズルい~!」 頬をぷくっと膨らませて不満を露わにするユフィリス。納得がいかないと言わんばかりに身を乗り出してくる彼女の勢いに、俺は必死に頭を回転させ、もっともらしい理由を捻り出した。「えっと……ホントはお風呂でしたらダメなんだよ。王女様が、マナー違反をしてるのがバレたら大変でしょ?」 この世界に、お風呂で浮いてはいけないという作法があるかは知らない。だが、俺が元いた世界の公共マナーを引き合いに出して、できるだけ厳格そうな顔を作ってみせる。王族という立場上、マナー違反という言葉は彼女にとって無視できない重みを持ってい







